前回に引き続き今回も糖尿病の話題です。糖尿病と循環器疾患はきわめて深い関係にあるので、循環器疾患を専門とするものは、糖尿病を避けて通れないのです。動脈硬化の危険因子として高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満などがあることは前にも書きましたが、それらの病態の根っこの部分にインスリン抵抗性があると唱えたのがリーベン先生でした。インスリン抵抗性とはなにかというと、インスリンという血糖を下げるホルモンがでても血糖がなかなか下がらない状態、言い換えるとインスリンの効きにくさのことをいいます。そしてインスリン抵抗性は内臓肥満と密接なかかわりがあることがわかり、今年の流行語大賞にもノミネートされた「メタボリックシンドローム」の病態としても重視されています。

 それではインスリン抵抗性はどう測定するのでしょう?グルコースクランプ法やSSPG法(steady state plasma glucose)などの検査法がありますが、これらの検査は手間も暇もかかりますので日常臨床では使えません。

 そこでインスリン抵抗性の指標としてより簡便に測定できるHOMA-R(homeostasis model assessment insulin resistance)が使われているのです。これは(空腹時血糖×血中インスリン)÷405で算出されます。空腹時の採血をするだけで測定できてしまう簡便な方法です。この値が高ければ高いほどインスリン抵抗性が強いと診断され2.5以上は異常とされています。

 この数式の意味するところを見ていきましょう。インスリンの効きが悪い時の血糖とインスリンに関しては、つぎの3つの場合が考えられます。1、インスリンは普通にでているが、効きが悪いため血糖値が上がってしまう。2、インスリンの効きが悪いため、いっぱいインスリンが出て初めて普通の血糖になっている。3、インスリンの効きが悪いためインスリンがいっぱい出ているのに血糖値も高値。(インスリンも低値で効きも悪いため非常な高血糖になる場合もありますが、難しいので今回は考えないこととします。)これら3つの場合は血糖値あるいはインスリン値もしくは両方とも高値なのですから血糖値とインスリン値の積であるHOMA-Rは当然高くなります。しかもインスリン抵抗性に比例して血糖値やインスリン値は上昇するためインスリン抵抗性が高いほどHOMA-Rは高値となり、HOMA-Rがインスリン抵抗性の指標となり得るのです。

 2型糖尿病は、インスリン抵抗性とすい臓からのインスリン分泌不全のふたつの病態により血糖が上昇することによって発症します。どちらの要素が強いのかを知ることにより適切な治療方針をたてることができます。そこで糖尿病治療を始めるにあたってHOMA-Rを知ることは治療方針決定のために大変役に立つのです。

 それではインスリン抵抗性=HOMA-Rを下げるにはどうしたらよいかを解説しましょう。そう、みなさんお分かりのとおり、まずは肥満の解消です。もうひとつは運動です。適切な運動療法をおこなえば、たとえ体重が減らなくても、1週間もすればインスリン抵抗性が改善することがわかっています。そこでたとえ体重が減らなくても適度な運動を続けることが大事なのです。また最近ではインシュリン抵抗性を改善する薬の使用頻度が以前より高くなってきています。