むくみには利尿剤?

外来診療をやっているとむくみのある患者さんがたくさんいらっしゃるのに驚かされます。今回はこのむくみについて、皆さんに知っておいて欲しいことを書いてみます。

まずむくみ=医学的にいうと浮腫とはなんぞや?ということですが、その前に人間の体の水分の分布についてお話します。水分が一番多いのは人間の体を作っている細胞の中にある水分、これを細胞内液といい体重の約40%を占めます。つぎに多いのは細胞と細胞の間にある水分でこれを間質液といい、体重の約15%です。残りが血管のなかを流れている水分で体重の約5%です。むくみとはこのうちの間質液が異常に増えてしまった状態です。通常細胞内液が細胞外に漏れ出ることはなく、血管内の水分が細胞と細胞の間に漏れ出て間質液を増やし、むくみを生じさせます。

それでは何故血管内の水分が血管の外へ漏れ出てしまうのでしょうか?これには以下に記す3つの機序があります。

1、静水圧の上昇
静水圧とは血管の中の圧力です。微小血管は水分を通しますから圧力が上がれば当然水分は血管の外に漏れ出てしまいます。心臓に戻っていく血管のことを静脈というのはご存知のことと思いますが、心不全の時は心臓がポンプとして血液を循環させる能力が落ちてしまう訳ですから、血液は心臓に戻りづらくなり静脈圧=静水圧が上昇し、むくみが生じます。血管の中の余分な水分は腎臓で体外に排出されます。腎不全になりこの排出がうまくいかなくなれば血管内に水分がたまりすぎ、これも静水圧を上昇させむくみを生じさせます。この機序によるむくみの原因は、心不全と腎不全ということになります。

2、浸透圧の低下
浸透圧に関しては中学校の理科で習ったと思うので詳述しませんが、濃い液体とうすい液体を、半透膜という水は通すけれど大きな分子は通さない膜で隔てると、うすい液体から濃い液体のほうへ水が移動し、同じ濃さになろうとする性質があると考えてください。微小血管壁は半透膜になります。血液の浸透圧を決めるのはアルブミンというタンパクの一種です。血管内のアルブミン量が減れば、血管内が間質液よりもうすくなりますから血管内の水分が間質液のほうへ漏れ出てむくみが生じるという理屈です。では血管内のアルブミンが減ってしまう病態にはどんなものがあるか?ですが、タンパク摂取量が減ればアルブミンを作る材料が減ってしまいますから1、低栄養状態、アルブミンは肝臓で合成されますから、合成が出来なくなる2、肝硬変、体の外に腎臓から大量にアルブミンがでてしまう3、ネフローゼ症候群があります。

3、血管透過性亢進
アレルギーなどにより血管が異常に水分を通しやすくなり、血管内の水分が漏れ出てしまう状態です。じんましん、血管浮腫(クインケ浮腫)、アナフィラキシーショック時の喉頭浮腫etcがこれにあたります。

これ以外に特殊なむくみとして、甲状腺機能低下症時の粘液水腫、リンパ浮腫があります。
むくみといってもこれだけの機序があるので、お話を聞いて診察をし、簡単な検査で診断がつく場合もありますが、いろいろな検査をしなければ診断が難しい場合もあることを理解して欲しいのです。

ここで結論です。むくみでも機序により治療法は異なります。むくんだら利尿剤を飲めばよい、というだけでは済まない場合も多々あるのです。