循環器あるいは糖尿病など、おもなターゲットが動脈硬化である医師たちの間で話題になるキーワードはここのところ毎年変わってきています。2004年は「食後高血糖」でした。2005年~2006年にかけてはみなさんにもおなじみになった「メタボリックシンドローム」で、2006年後半から話題の中心になってきたのが「慢性腎臓病=Chronic Kidney Disease=CKD」です。

 CKDの定義は日本でのものはまだ研究中で、米国腎臓財団の定義が用いられるのが一般的です。①腎臓の一部をとってきて顕微鏡で見たものが病的、エコーやCTで腎臓が病的、検尿で明らかな蛋白尿などの所見がある。②糸球体濾過量が60ml/分以下である。①、②のいずれか、あるいは両方が3ヶ月以上持続することが、CKDの定義です。

ここで糸球体濾過量とは、腎臓の尿を作り出す糸球体というところでどれだけ多くの血液を濾過できるかという値で、腎機能の指標とされています。正常値は80ml/分以上です。この値を正確に測定する検査は煩雑なため、血液中の尿毒素の値であるクレアチニン(Cr)から計算式を用いて推定しています。米国での計算式は大変複雑です。米国人と日本人は人種が違うためそのまま米国の計算式をあてはめるわけにはいきません。日本人での計算式は今現在研究中ですが、現在日本で最も一般的に用いられる計算式はCockcroft-Gaultのものでしょう。これは糸球体濾過量=(140-年齢)×体重Kg/(72×クレアチニン値)(女性の場合これに0.85を乗ずる)とそれほど複雑な計算式ではありません。

みなさんもこの式を用いてご自身の糸球体濾過量を計算してみてください。かなりの方が60ml/分以下になると思います。

この定義によるCKDの方は、腎機能が悪くなればなるほど、心筋梗塞の発症率、死亡率、入院回数などが増えてしまうことが米国の疫学調査でわかったのです。一例をあげれば、糸球体濾過量が正常な方に比し、糸球体濾過量が15ml/分未満の人の死亡率は18.6倍になります。

日本での疫学調査の結果、20歳以上の日本人の約2000万人がCKDであることがわかり、とくに高齢者ではより高頻度に見られることが明らかにされました。JATOSという臨床試験においては、高齢高血圧患者さんの実に6割がCKDでした。

血圧が下がればどんな薬を使ってもCKDの進行を抑制します。しかしある種の薬剤は血圧が下がることだけで説明できる以上にCKDの進行を抑制し、場合によってはCKDを改善させることがわかっています。今後の高血圧や糖尿病治療においてはCKDを意識した治療が必須になってくるものと思われます。

今回の話を簡単にまとめると
1、CKDは死亡率や心筋梗塞の発症をうんと増やす。
2、今まで考えられていた以上にCKDは多い。
3、高血圧や糖尿病の治療においてCKDを意識することが大事。
ということになりますね。