急性肺塞栓症について

 この病気の解説をする前に人間の血液の循環について説明します。まずは動脈と静脈についてです。動脈とは心臓から血液が送り出されていく血管のことをいい、静脈とは心臓に血液が戻ってくる血管のことをいいます。まず、左心室から酸素の多い血液が動脈をとおして全身におくられます。血管は枝分かれを繰り返し、最終的に毛細血管となり全身の細胞に酸素を送ります。酸素が少なくなった血液が静脈をとおって右心室に戻ります。その後右心室から肺動脈という肺へ行く血管をとおり、これがまた毛細血管となり肺で酸素を受け取ります。酸素が多くなった血液が再び肺静脈をとおり心臓の左心房にもどり、左心房から左心室に血液が流れ、左心室から酸素の多い血液が全身に送られることが繰り返されるのです。みなさんは動脈には酸素が多い血液が流れ、静脈には酸素が少ない血液が流れていると思っていませんでしたか?これは全身を流れる血管ではそのとおりなのですが、肺へいく血管では逆なことがご理解いただけたでしょうか?

 この病気は、別名エコノミークラス症候群ともいわれています。主に下肢の深い静脈に血の塊(血栓)ができ、それが流れていき右心室をとおり肺動脈を閉塞してしまう病気です。

 症状は呼吸器系の症状と循環器系の症状に大別されます。肺動脈が閉塞してしまうので、酸素を十分に取り入れられなくなって呼吸困難が生じるのです。この病気で最も多い症状は「突然発症の呼吸困難」です。そこで喘息や心不全などない方に突然呼吸困難がおこったらこの病気を疑え、といわれているのです。胸痛も有名な症状ですが、胸痛はない例も稀ではありません。循環器系の症状としては動悸、冷汗、血圧低下、などがありますが、重症例では意識消失や、いきなり心肺停止になることもあります。

 この病気も心筋梗塞などと同様、早期診断、早期治療が重要です。ある報告によると、重症例において、早期に診断できた人たちの死亡率は22%であったが、診断確定が困難で診断が遅れた人たちの死亡率は68%に達しています。全体での死亡率は10~30%といわれています。

 血流のうっ滞(流れが滞ること)と血液凝固能(血が固まりやすくなる)ことが原因となります。術後など病院内で発症するものとエコノミークラス症候群のように病院外で発症するものが半々です。長時間じっとおなじ姿勢でいることがもんだいで、2004年の新潟県中越地震で、車の中で避難生活を送る人たちの中に、エコノミークラス症候群の疑いで死亡するケースが相次いだのは記憶に新しいところでしょう。

 予防としては、長時間の旅行では(飛行機とは限らない)時々下肢を動かすことが推奨されています。また脱水になり血液凝固能が亢進することもリスクとなるため十分な水分補給も重要です。アルコールはかえって脱水をおこしやすくするので適量を守ることです。怪我や病気で長期に臥床しなければならない場合には、弾性ストッキング着用など積極的な予防策をとることが強調されています。