高血圧や糖尿病の患者さんに、当院では原則半年に一度採血の検査をしています。そこでよくあるのが、総コレステロールはそう高くないのに、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い場合です。HDLコレステロールとは、血管壁にこびりついた悪玉コレステロールを取り除いてくれる良いコレステロールです。油汚れは水ではなかなか落ちづらいといったらわかりやすいでしょうか?血管壁についたコレステロールも似たようなものでないと取り除けないのです。

 日本人の心筋梗塞は総コレステロール値が高いことよりHDLコレステロール値が低いことが原因になっている場合が多く、HDLコレステロール値が35mg/dl以下の場合50mg/dl以上の人より倍以上心筋梗塞になりやすいというデータがあります。HDLコレステロールの基準範囲は40mg/dl以上とされていますが、できれば50mg/dl以上欲しいところです。

 HDLコレステロールが低いと言うと、よく患者さんは、じゃ何を食べればいいんですかと質問します。食べ物だけの問題じゃないのですが、あえて答えると、わずかにHDLを増やす食べ物はあるけれど、10も20も増やす食べ物はありません、ということになります。しいて口からはいるもので、あきらかにHDLコレステロールを増やすものといえば、アルコールです。こういうと「酒飲み」は喜ぶかもしれませんが、体によいのはあくまで適量です。適量とは日本酒なら1合、ビール1本程度です。これ以上飲むと害が益を上回ってしまいます。また飲まない人に無理に酒を勧めるほどの価値はありません。

 ではどうしたらいいのか?をまとめると、1)禁煙、2)運動、3)大豆などの植物性蛋白、植物油(オリーブ油)、魚油(青魚)の摂取、4)肥満の解消、5)適度な飲酒、があげられます。このうち特に効果があるのは1)禁煙、と2)運動、です。3)の食事療法だけで10も20も増えるものではありません。

 1)、2)、4)、はどこかでみませんでしたか?そう、HDLコレステロールが低いことに対する対策は動脈硬化対策に他ならないのです。 HDLコレステロールが低いと中性脂肪が高い場合が多く、またインシュリンが効きづらい体質(インシュリン抵抗性という)を合併することがしばしばです。これはいま話題のメタボリック症候群の本態ともいわれているものです。そこでHDLコレステロールが低い場合、表面にあらわれた低HDLコレステロールに対する対策だけでなく、総合的な動脈硬化対策が必要となるのです。

 HDLコレステロールが低い場合、前述の1)、~4)、(5)、)を実践していただき、どうしても増えない場合薬を処方することもありますが、いまのところ劇的にHDLを増やす薬はなく、薬は生活習慣を改善した後の補助的なものと考えたほうがよいでしょう。ちなみにHDLコレステロール増やす薬の代表はフィブラート系の薬剤で、現在主に使われているのはベザトール(ベザフィブラート)とリピディル=リパンチル(フェノフィブラート)です。